オンボーディングにおける上司の役割とコミュニケーション|離職防止の決め手

オンボーディングの成否は、新入社員を迎え入れる上司やリーダーのコミュニケーションに大きく左右されます。いくら優れたオンボーディングプログラムがあっても、直属の上司のコミュニケーションが適切でなければ、新入社員の定着やパフォーマンスに悪影響を及ぼす可能性があります。
本記事では、オンボーディングにおける上司・リーダーの役割と効果的なコミュニケーション方法について詳しく解説します。
上司のコミュニケーションが与える影響
早期離職のリスク要因
新入社員の早期離職の主な原因の一つに「上司との人間関係」が挙げられます。HR総研の「若手社員の離職防止とオンボーディング」に関するアンケート調査によると、「待遇」と並んで「上司との人間関係」が若手人材の離職要因として大きいことが明らかになっています。
具体的には、以下のような上司のコミュニケーションは、新入社員の離職リスクを高める可能性があります:
- 一方的な指示や命令が多く、意見を聞く姿勢がない
- 過度なプレッシャーを与える
- フィードバックが曖昧または否定的なものばかり
- サポートが不足している
- コミュニケーションの頻度が少なすぎる
モチベーションとエンゲージメントへの影響
上司のコミュニケーションスタイルは、新入社員のモチベーションやエンゲージメントにも大きな影響を与えます。ある調査によると、上司からの適切なフィードバックと承認を受けている社員は、そうでない社員と比較して2.9倍のエンゲージメントを示すという結果が出ています。
特にオンボーディング期間中は、新入社員は自分の立ち位置や貢献に不安を感じやすいため、上司からの適切なコミュニケーションがモチベーション維持にとって非常に重要となります。
心理的安全性の構築
上司のコミュニケーションスタイルは、チーム内の心理的安全性にも大きく影響します。心理的安全性とは「チーム内で対人リスクを取っても安全だという共有された信念」を指し、Googleの研究によっても高いパフォーマンスを発揮するチームの最も重要な特性として挙げられています。
新入社員にとって、質問や意見を自由に表明できる環境があるかどうかは、組織への適応を左右する重要な要素です。上司が心理的安全性を醸成するコミュニケーションを実践することで、新入社員はより早く組織に馴染み、その能力を発揮できるようになります。
リーダーがすべき5つの行動
オンボーディングにおいて、リーダーやマネージャーがすべき効果的な行動を5つ紹介します。
1. ウェルカム感を示す
新入社員が最初に感じる「この組織に歓迎されている」という感覚は、その後の適応に大きく影響します。リーダーは以下のような行動で積極的にウェルカム感を示しましょう:
- 入社初日に時間をとって挨拶と歓迎の意を表す
- チームメンバーへの紹介を丁寧に行う
- ウェルカムランチやティータイムを設ける
- オフィスツアーや必要な設備の案内を行う
- 「何か困ったことがあればいつでも相談してください」と伝える
2. 期待を明確に伝える
新入社員が不安に感じることの一つは「自分に何を期待されているのかが分からない」ということです。リーダーは以下の点について明確に伝えましょう:
- 役割と責任の範囲
- 期待されるパフォーマンスレベル
- 短期・中期・長期の目標
- 評価基準と評価方法
- 組織やチームの価値観と行動規範
これらを明確にすることで、新入社員は自分の立ち位置を理解し、安心して業務に取り組めるようになります。
3. 段階的な成長を支援する
新入社員に対して最初から高いパフォーマンスを期待するのではなく、段階的な成長を支援することが重要です:
- スモールステップで達成可能な目標を設定する
- 成功体験を積み重ねられるよう支援する
- 適切な難易度の仕事を割り当てる
- 新しいスキルを身につける機会を提供する
- 失敗を学びの機会として前向きに捉える環境を作る
4. 定期的なフィードバックを提供する
フィードバックは、新入社員の成長と適応を促進する重要な要素です:
- 週次または隔週の1on1ミーティングを設定する
- 具体的かつ建設的なフィードバックを提供する
- 良い点をしっかりと承認し、改善点は成長の機会として伝える
- フィードバックの際は「行動」に焦点を当て、「人格」を批判しない
- フィードバックは早めに行い、問題が大きくなる前に対処する
5. 心理的安全性を確保する
新入社員が安心して質問や意見を言える環境を作ることが重要です:
- 自ら失敗や間違いを認める姿勢を見せる
- 質問や意見を積極的に求める
- 新しいアイデアを肯定的に受け止める
- 批判よりも好奇心を持って接する
- 多様な意見や視点を尊重する姿勢を示す
リーダーが避けるべき5つの行動
次に、オンボーディングにおいてリーダーやマネージャーが避けるべき行動を5つ紹介します。
1. 一方的な指示だけで終わる
業務指示が一方的で質問や意見を受け付けないと、新入社員は孤立感や不安を抱きやすくなります。以下のような行動は避けましょう:
- 一方的に指示を出して終わる
- 質問する機会を与えない
- 「とにかくやれ」と結果だけを求める
- 詳細な説明や背景情報を省略する
- 新入社員の意見や提案を聞く姿勢がない
2. 過度な期待やプレッシャーを与える
新入社員のタイプによって適切な期待値は異なります:
- 新卒社員:初期段階から高いパフォーマンスを求めすぎると、プレッシャーで委縮してしまいます。
- 中途採用社員:即戦力と過信しすぎてサポートを省くと、環境の違いからパフォーマンスが低下することがあります。
仕事に対する適切な期待とサポートのバランスが重要です。新入社員の状態を把握し、その人に合った期待値を設定しましょう。
3. 曖昧な指示やフィードバック
「いい感じにやってみて」「ちょっと違うけど、考えてみて」などの抽象的な表現では、相手が次にどう行動すべきか分かりません。以下のような曖昧なコミュニケーションは避けましょう:
- 抽象的な表現やあいまいな言葉での指示
- 具体的な例示がない
- 期限や優先度が明確でない
- フィードバックが感情的または一般的すぎる
- 「なんとなく」「何か」などの不明確な言葉が多い
4. 過度な特別扱いまたは放任
新入社員に対する適切なサポートレベルを見極めることも重要です:
- 過剰なサポートは、他のメンバーとの間に不公平感を生み出すことがあります。
- 一方、放任しすぎると、新入社員は必要なサポートを得られず、孤立してしまいます。
- どちらも極端に走らず、適切なバランスを見つけることが大切です。
5. フォローアップを怠る
最初の段階で放任する、もしくは初期対応後にサポートをやめると、新入社員が相談や適応の機会を失います:
- 初期のオリエンテーション後のフォローがない
- 課題を与えた後の進捗確認がない
- 質問や相談への対応が遅い
- 約束したサポートを提供しない
- 定期的なチェックインやミーティングを実施しない
フォローアップは、新入社員が順調に適応しているかを確認し、必要なサポートを提供するために不可欠です。
効果的なコミュニケーション手法
ここでは、オンボーディングにおいて特に効果的なコミュニケーション手法を紹介します。
アクティブリスニング
アクティブリスニング(積極的傾聴)は、相手の話を全身で聴き、理解しようとする姿勢です。新入社員との信頼関係構築には欠かせません:
- 相手の話に集中し、目を見て聴く
- 姿勢や表情で関心を示す
- 相手の言葉を遮らない
- 適切なタイミングで相づちを打つ
- 「それで?」「具体的には?」などの質問で深掘りする
- 言葉を言い換えて確認する(パラフレージング)
フィードバックの技術
建設的なフィードバックは、新入社員の成長に不可欠です:
SBIモデル(Situation-Behavior-Impact)
- 状況(Situation):いつ、どこで起きたかを具体的に述べる
- 行動(Behavior):相手が何をしたのかを客観的に述べる
- 影響(Impact):その行動がどのような影響を与えたかを述べる
例:「昨日のミーティング(状況)で、あなたが顧客の要望をまとめて説明してくれた(行動)おかげで、チーム全体が課題を明確に理解でき、効率的に解決策を考えることができました(影響)。」
サンドイッチ法
- 肯定的なフィードバック
- 改善点
- 肯定的な締めくくり
ただし、この方法は形式的になりすぎると効果が薄れるため、真摯さと具体性が重要です。
コーチング型質問
新入社員の思考を促し、自発的な行動を引き出すためのコーチング型質問も効果的です:
- オープン質問:「どう思いますか?」「どのようなアプローチがいいと思いますか?」
- 深堀り質問:「もう少し詳しく教えてください」「その理由は何ですか?」
- 視点変更質問:「別の視点から見るとどうですか?」「お客様だったらどう感じると思いますか?」
- 未来志向質問:「次回はどうしたいですか?」「理想の状態はどのようなものですか?」
1on1ミーティングの活用
1on1ミーティングは、新入社員との信頼関係構築と成長支援に非常に効果的なツールです:
効果的な1on1ミーティングの構成
- ウォームアップ(5分):近況や気分を聞く
- 振り返り(10分):前回からの進捗、成果、課題を確認
- フィードバック(10分):お互いのフィードバックを共有
- 成長支援(15分):キャリアや成長に関する対話
- アクションプラン(5分):次回までの目標や行動計画を設定
- 質問・相談(10分):質問や相談に答える時間
1on1ミーティングのポイント
- 定期的に行う(週1回または隔週で30〜60分)
- 予定通り実施する(簡単にキャンセルしない)
- 新入社員が主役になるよう促す
- メモを取り、フォローアップを確実に行う
- ステータス報告の場ではなく、成長支援の場として活用する
コミュニケーションの習慣化
効果的なコミュニケーションは一度や二度で身につくものではなく、習慣として定着させることが重要です。ここでは、リーダーがコミュニケーションを習慣化するためのポイントを紹介します。
コミュニケーションの習慣化のステップ
1. 意識(Awareness)
まず、自分のコミュニケーションパターンを客観的に認識することから始めます:
- 自分のコミュニケーションスタイルを振り返る
- 強みと改善点を特定する
- フィードバックを積極的に求める
2. 意図(Intention)
次に、どのようなコミュニケーションを目指すかの意図を明確にします:
- 新入社員との理想的な関係性を描く
- 具体的なコミュニケーション目標を設定する
- なぜその目標が重要なのかを理解する
3. 行動(Action)
意図を行動に移します:
- 小さな具体的な行動から始める
- 日常の業務に組み込む
- 視覚的なリマインダーを活用する
4. 反復(Repetition)
継続的に実践することで習慣化を進めます:
- 毎日または定期的に実践する時間を確保する
- 環境や状況に応じて微調整する
- 同じ行動を繰り返し、自動化を目指す
5. 内在化(Internalization)
最終的に、意識せずとも自然と行動できる状態を目指します:
- 行動が自動的になる
- 新しい状況でも応用できる
- 他者に教えることができる
習慣化のための具体的な施策
トリガーの設定
特定の行動や状況をトリガー(きっかけ)として設定することで、習慣化を促進できます:
- 朝のチェックイン:出社時に新入社員に一言声をかける
- ミーティング後のフィードバック:ミーティング後に必ず一つ良かった点を伝える
- 週の始まりと終わり:週初めと週末に短い面談の時間を設ける
振り返りの習慣
定期的な振り返りによって、コミュニケーションの質を高めることができます:
- 週末の5分間振り返り:その週の新入社員とのコミュニケーションを振り返る
- コミュニケーション日記:重要な対話や気づきをメモする
- 月次の自己評価:月に一度、コミュニケーション目標の達成度を評価する
習慣化を支援するツール
以下のようなツールを活用することで、習慣化をサポートできます:
- カレンダーでの時間ブロック:1on1ミーティングや短いチェックインの時間を確保
- チェックリスト:重要なコミュニケーションポイントのリマインダー
- アプリ:習慣化を支援するアプリの活用
- ピア・アカウンタビリティ:同僚と互いの習慣形成を支援し合う
習慣化の障壁と対策
時間の制約
「忙しくて時間がない」という障壁に対しては:
- 短時間でも質の高いコミュニケーションを心がける
- 日常業務の中に組み込む(例:移動中の会話、昼食時の対話)
- 優先順位を明確にし、新入社員との時間を確保する
固定観念
「自分はコミュニケーションが苦手」などの固定観念に対しては:
- 小さな成功体験を積み重ねる
- スキルは練習で向上するという成長マインドセットを持つ
- ロールモデルを見つけ、真似してみる
一貫性の欠如
「忙しい時に後回しになる」という課題に対しては:
- 「絶対にやる」という最小限のコミットメントを設定する
- 環境を整える(例:リマインダーの設置、障壁の除去)
- 周囲からのサポートを求める
まとめ
オンボーディングにおける上司・リーダーのコミュニケーションは、新入社員の適応と成長に決定的な影響を与えます。適切なコミュニケーションによって、新入社員は組織に馴染み、早期に能力を発揮することができるようになります。
本記事で紹介した以下のポイントを実践することで、より効果的なオンボーディングを実現することが可能です:
- リーダーがすべき行動:ウェルカム感を示す、期待を明確に伝える、段階的な成長を支援する、定期的なフィードバックを提供する、心理的安全性を確保する
- リーダーが避けるべき行動:一方的な指示、過度な期待、曖昧な指示やフィードバック、過度な特別扱いまたは放任、フォローアップの欠如
- 効果的なコミュニケーション手法:アクティブリスニング、建設的なフィードバック、コーチング型質問、1on1ミーティングの活用
- コミュニケーションの習慣化:意識、意図、行動、反復、内在化のステップを通じた習慣化
上司・リーダーのコミュニケーションが改善されることで、新入社員の離職率低下、エンゲージメント向上、早期戦力化などの効果が期待できます。オンボーディングの成功には、組織全体の取り組みが重要ですが、その中でも特に上司・リーダーの役割は大きいと言えるでしょう。
オンボーディングの全体的な施策については、「オンボーディング成功のための3つの施策と実践ポイント」の記事で詳しく解説しています。
また、オンボーディングにおけるメンター制度の活用については、「メンター制度をオンボーディングに活用するポイント」の記事をご参照ください。
チームダイナミクスでは、リーダーのコミュニケーション能力向上を支援する研修プログラムを提供しています。習慣力メソッドを活用し、コミュニケーションの習慣化を促進することで、リーダーシップの真の変化を実現します。お気軽にお問い合わせください。