オンボーディングとは?意味・目的と成功に導く3つの感覚【2025年最新】

新卒採用社員および中途採用社員の早期離職は、どの組織にとっても大きな経営課題となっています。このような課題に対応するため、近年「オンボーディング」という取り組みが注目されています。
本記事では、オンボーディングの意味や目的、成功に必要な3つの感覚について詳しく解説していきます。人材育成や組織開発に関わる方々の参考になれば幸いです。
オンボーディングとは
オンボーディング(On-boarding)とは、「船や飛行機などの乗り物に乗っている状態」を意味する「on-board」を由来とする言葉です。人事の分野では、新しく会社や組織に加わった人材(新卒採用者や中途採用者)がいち早く職場に馴染み、能力を発揮できるようにサポートするための一連の取り組みやプロセスを指します。
アメリカ発祥のこの概念は、単なる導入研修ではなく、新入社員が組織の文化や価値観を理解し、必要なスキルを身につけ、人間関係を構築するための包括的なプロセスとして捉えられています。
オンボーディングは次のような特徴を持ちます:
- 継続的なプロセス:一過性の研修ではなく、入社前から入社後数か月(場合によっては1年)にわたって継続的に実施
- 全社的な取り組み:人事部だけでなく、直属の上司や同僚、他部署の社員も関わる
- 個別最適化:新入社員の経験や能力に応じたカスタマイズが可能
SaaS企業などでは顧客に対して行う「カスタマーオンボーディング」も存在しますが、本記事では従業員に対するオンボーディングに焦点を当てて解説します。
オンボーディングが注目される背景
早期離職率の高さ
オンボーディングが注目される最大の要因は、早期離職率の高さです。厚生労働省の「新規学卒就職者の在職期間別離職率の推移」によると、大学卒業後3年以内の離職率は約3割に達します。中途採用者の場合はさらに高く、新卒の1.5~2倍にのぼるとも言われています。
これを数字で考えると、ある年に採用した100名の新入社員が、3年後には30名、中途採用社員に至っては45~60名が退職してしまうことになります。採用活動のコストや教育投資を考えると、この早期離職は企業にとって大きな損失となります。
職場環境の変化
テレワークの普及により、対面でのコミュニケーションが減少し、新入社員が職場の雰囲気や暗黙のルールを吸収することが難しくなっています。また、上司や先輩社員とのカジュアルな会話も減少したことで、業務上の疑問や悩みを相談する機会も限られています。
価値観の多様化
近年は仕事に対する価値観も多様化し、「自分の成長」や「やりがい」を重視する傾向が強まっています。新入社員は入社直後から自分の役割や成長機会、組織における自身の存在価値を明確に理解したいと考えています。
こうした背景から、新入社員を組織に迎え入れ、早期に戦力化するための戦略的なアプローチとしてオンボーディングが重要視されるようになったのです。
オンボーディングの目的
オンボーディングには、以下のような目的があります。
1. 早期離職の防止
オンボーディングの最も重要な目的の一つは、新入社員の早期離職を防止することです。早期離職の原因として多いのは「入社前と入社後のギャップ」「職場の人間関係」「やりがいの欠如」などが挙げられます。適切なオンボーディングによって、これらの不満や不安を軽減し、組織への定着を促進します。
2. 新入社員の早期戦力化
新入社員が組織や業務に早く馴染み、その能力を最大限に発揮できるようサポートすることも重要な目的です。オンボーディングを通じて、必要な知識やスキルを効率的に習得し、短期間で成果を出せるようになることを目指します。
3. 組織へのエンゲージメント向上
新入社員が組織のビジョンや価値観に共感し、自分の役割を明確に理解することで、仕事に対するエンゲージメントが高まります。高いエンゲージメントは、生産性の向上や長期的な定着にもつながります。
4. 部署による教育格差の是正
部署や教育担当者によって教育の質や内容にばらつきが生じることを防ぎ、すべての新入社員が公平な機会と環境で成長できるようにします。全社的に統一された基準でのオンボーディングプログラムを提供することで、教育の格差を最小限に抑えることが可能です。
5. 組織風土の改善
新入社員を全社的にサポートする文化を育むことで、組織全体のコミュニケーションや協力関係が強化されます。これにより、オープンで支援的な組織風土の醸成にもつながります。
従来型の研修・OJTとの違い
オンボーディングは、従来型の研修やOJT(On the Job Training)とは異なる特徴を持っています。主な違いを以下に示します。
1. 対象範囲の違い
従来型の新入社員研修:主に基本的なビジネスマナーや会社のルール、基本的な業務知識などを教育することが中心です。一般的に入社直後の一定期間(数週間~数か月)に集中して実施されます。
OJT:実際の業務を通じて、先輩社員や上司から仕事の進め方や知識・スキルを習得する方法です。業務に必要な実践的なスキルの習得に焦点を当てています。
オンボーディング:業務スキルの習得だけでなく、組織文化の理解や人間関係の構築、メンタルケアまでを包括的にカバーします。入社前から入社後の一定期間(数か月~1年程度)にわたって継続的に実施されます。
2. 実施主体の違い
従来型の新入社員研修:主に人事部が中心となって実施し、その後の育成は現場に委ねられることが多いです。
OJT:配属先の先輩社員や上司が中心となって実施します。
オンボーディング:人事部、配属先の上司・先輩、メンターなど、組織全体で新入社員をサポートします。部署を超えた関わりも重視されます。
3. 重視するポイントの違い
従来型の新入社員研修:知識やスキルの習得を重視します。
OJT:実務能力の向上を重視します。
オンボーディング:組織への適応と帰属意識の醸成、エンゲージメントの向上を重視します。業務スキルの習得は、その一部に過ぎません。
このように、オンボーディングは従来の研修やOJTを包含しつつ、より広範囲かつ長期的な視点で新入社員の育成と定着を支援するアプローチと言えるでしょう。
オンボーディングに必要な3つの感覚
効果的なオンボーディングを実現するためには、新入社員に以下の3つの感覚を持ってもらうことが重要です。
1. ウェルカム感
リーダーやチームメンバーから「仲間」として歓迎されているという感覚です。飛行機や船に乗った時の「ウェルカム オンボード」というアナウンスは、「よく同じ飛行機(船)に乗ってくださいました。あなたを歓迎します!」という意味があります。
オンボーディング施策では、新入社員に対して同様の歓迎の気持ちを伝えることが重要です。具体的には、入社前の連絡や入社日の歓迎会、上司や先輩社員からの積極的な声掛けなどが効果的です。
2. チームメンバーとしての重要感・帰属感
組織やチームの重要なメンバーの一人であると見なされているという感覚です。新入社員は「自分の存在が認められている」「自分の役割が明確になっている」と感じることで、組織に貢献したいという意欲が高まります。
この感覚を醸成するためには、新入社員の役割や期待を明確に伝えること、小さな成果でも積極的に評価・承認すること、チームの意思決定プロセスに参加させることなどが重要です。
3. 自己一致感
新しい組織やチームの中で、自分らしく働くことができるという感覚です。自分の価値観や強み、個性が組織の中で活かされていると感じることで、モチベーションやエンゲージメントが高まります。
ロンドンビジネススクールとハーバードビジネススクールの共同研究によると、自己理解を促し、個人のアイデンティティを重視する研修を受けた新入社員は、組織重視型や従来型の研修を受けた社員よりも、入社6か月後の時点で高い従業員満足度と顧客満足度を示し、定着率も平均33%高かったという結果が出ています。
これらの「3つの感覚」が満たされることによって、新入社員は組織とのエンゲージメントを高め、仕事での充実感を感じることで、生産性や創造性を高めていきます。このことが定着率の向上にもつながるのです。
オンボーディング施策では、これらをいかに醸成するかがポイントとなります。
まとめ
オンボーディングは、新入社員が組織に馴染み、早期に能力を発揮できるようにするための包括的なプロセスです。早期離職の防止や従業員エンゲージメントの向上、組織風土の改善など、さまざまな目的があります。
効果的なオンボーディングを実現するためには、「ウェルカム感」「重要感・帰属感」「自己一致感」という3つの感覚を新入社員に持ってもらうことが重要です。これらの感覚が満たされることで、新入社員は組織への定着と高いパフォーマンスを発揮できるようになります。
オンボーディングを成功させるための具体的な施策については、「オンボーディング成功のための3つの施策と実践ポイント」の記事で詳しく解説しています。
また、オンボーディングにおける上司やリーダーの役割については、「オンボーディングにおける上司・リーダーの役割とコミュニケーション」の記事をご参照ください。
チームダイナミクスでは、行動の習慣化による本質的な変化の実現を重視した研修プログラムを提供しています。オンボーディングに関するご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。