オンボーディング成功のための3つの施策と実践ポイント|定着率向上の秘訣

新入社員の早期離職を防ぎ、組織への適応を促進するオンボーディング。この記事では、オンボーディングを成功させるための3つの施策と、それぞれの実践ポイントについて解説します。
「休み明けの朝、元気に仕事に向かう人をこの社会に増やす」ためには、新入社員に対する適切なオンボーディングが不可欠です。どのような施策を講じれば、新入社員のエンゲージメントを高め、早期離職を防ぐことができるのでしょうか。
オンボーディング成功のための3つの施策
オンボーディングを効果的に実施するためには、新入社員のみならず、組織全体が関わる包括的なアプローチが必要です。ここでは、オンボーディングを成功に導く3つの主要な施策を紹介します。
- オンボーディングエンゲージメント:新入社員のエンゲージメントと帰属意識を高める施策
- オンボーディングコミュニケーション:新入社員に対するリーダーやチームのコミュニケーション
- オンボーディングシステム:新入社員の受け入れ体制と早期戦力化のための教育システム
これらの施策を適切に組み合わせることで、新入社員が組織に馴染み、早期に成果を出せる環境を整えることができます。以下、それぞれの施策について詳しく見ていきましょう。
施策1:オンボーディングエンゲージメント
オンボーディングエンゲージメントは、新入社員のエンゲージメントと帰属意識を高めるための施策です。主に新入社員自身を対象とし、組織への適応を促進します。
自己理解と他者理解を深める
ロンドンビジネススクールとハーバードビジネススクールの共同研究によると、自己理解を促し、個人のアイデンティティを重視する研修を受けた新入社員は、組織重視型や従来型の研修を受けた社員よりも、入社6か月後の時点で高い従業員満足度と顧客満足度を示し、定着率も平均33%高かったという結果が出ています。
この研究結果からも分かるように、新入社員の自己理解を促し、個々のアイデンティティを尊重することが、エンゲージメント向上には重要です。研修やワークショップを通じて、自分の強みや価値観を理解し、それが組織の中でどのように活かせるかを考える機会を提供しましょう。
組織のミッション・ビジョン・バリューの理解促進
新入社員が組織のミッション、ビジョン、バリューを深く理解することで、組織への帰属意識が高まります。単に理念を伝えるだけでなく、それが日々の業務や意思決定にどのように反映されているかを具体的に示すことが大切です。
以下のような施策が効果的です:
- 経営陣による講習会
- 組織の成り立ちや歴史を学ぶセッション
- バリュー体現者との対話
- バリューに基づいた行動の事例共有
個人の価値観とキャリアビジョンの深掘り
新入社員が個人の価値観とキャリアビジョンを明確にし、それと組織の方向性をすり合わせることも重要です。自分軸(価値観+キャリアビジョン)と組織軸(組織バリュー+組織ビジョン)の関わり合いを明確化することで、エンゲージメントとやる気スイッチへの点火を促します。
具体的な施策例:
- キャリアビジョンワークショップ
- 価値観探索セッション
- 個別キャリア面談
- 成長機会の明確化
定期的なフィードバックと評価
新入社員のエンゲージメントを高めるためには、定期的なフィードバックと適切な評価が欠かせません。達成すべき明確な目標を設定し、それに対するフィードバックを丁寧に行うことで、新入社員は自分の成長を実感し、組織への貢献を意識できるようになります。
- 週次・月次のチェックインミーティング
- 四半期ごとの評価面談
- 小さな成功の共有と祝福
- スキル習得の見える化
施策2:オンボーディングコミュニケーション
オンボーディングコミュニケーションは、新入社員が配属される部署のリーダーや同僚を対象とした施策です。新入社員とのコミュニケーションの質を高めることで、スムーズな組織適応をサポートします。
上司のコミュニケーションの重要性
いくら新入社員本人が高いモチベーションやエンゲージメントを持っていても、直属の上司であるリーダーが適切なコミュニケーションを取れなければ、その意欲は急速に失われてしまいます。
オンボーディング施策において、対象者の上司がオンボーディングの意味や効果を十分に理解し、適切なコミュニケーションを取ることが成功の鍵となります。
効果的なコミュニケーションの基本
上司にあたるリーダーが取るべきコミュニケーションの基本は、以下の3点です:
- 安心感の提供:新入社員が不安なく質問や相談ができる環境づくり
- 明確な期待値の提示:役割や目標、期待することを分かりやすく伝える
- 継続的なサポート:日常的な声かけやフォローアップ
これらがコミュニケーション中で保証されていることで、新入社員の活躍の土台が形成されます。
リーダーがしてはいけない行動
一方、以下のようなコミュニケーションは避けるべきです:
一方的な指示だけで終わる:業務指示が一方的で質問や意見を受け付けないと、新入社員が孤立感や不安を抱きやすくなります。
過度な期待やプレッシャーを与える:
- 新卒社員に初期段階から高いパフォーマンスを求めすぎると、プレッシャーで委縮してしまいます。
- 中途採用社員を即戦力と過信しすぎてサポートを省くと、ギャップからパフォーマンスが低下します。
曖昧な指示やフィードバック:「いい感じにやってみて」「ちょっと違うけど、考えてみて」などの抽象的な表現では、次にどう行動すべきか分からなくなります。
対象者を特別視しすぎる:過剰なサポートは、他のメンバーとの間に不公平感を生み出すことがあります。
フォローアップを怠る:初期段階で放任したり、初期対応後にサポートをやめたりすると、新入社員が相談や適応の機会を失います。
コミュニケーション力向上のためのトレーニング
リーダーや上司のコミュニケーション力を高めるためには、適切なトレーニングが必要です。具体的には以下のようなものが有効です:
- 傾聴力トレーニング
- 質問力トレーニング
- フィードバックの技術習得
- 1on1ミーティングの進め方研修
これらのスキルを身につけることで、新入社員とのコミュニケーションの質が向上し、オンボーディング全体の効果を高めることができます。
施策3:オンボーディングシステム
オンボーディングシステムは、新入社員の受け入れ体制と早期戦力化のための教育システムを整備する施策です。入社時のウェルカムシステムと、その後の教育システムの2つに分けて考えることができます。
入社時のウェルカムシステム
入社当日から新入社員が「歓迎されている」と感じられるようなシステムを構築することが重要です。
事前準備
- 業務に必要な備品・アカウントなどの事前準備
- 歓迎メッセージやウェルカムキットの用意
- 入社初日のスケジュール作成と共有
入社初日の受け入れ
- 上司による時間をかけた歓迎と面談
- オフィスツアーや社内施設の案内
- チームメンバーとの顔合わせ
- 緊急時の連絡先や基本的なルールの説明
歓迎イベント
- ウェルカムランチやティータイム
- チーム内での自己紹介セッション
- 「バディ」または「ペア」制度の導入
早期戦力化のための教育システム
新入社員が早期に組織の一員として活躍できるよう、体系的な教育システムを整備します。
段階的な研修プログラム
新入社員の適応段階に合わせた研修プログラムを設計します。一般的には以下のような流れが効果的です:
- 入社直後(1~2週間):企業理念、組織文化、基本的なルールの理解
- 配属後初期(1~3か月):業務の基本スキル習得、社内システムの操作方法習得
- 中期(3~6か月):専門スキルの習得、独立した業務の実施
- 長期(6か月~1年):応用スキルの習得、チームへの貢献
メンター制度
メンター制度は、新入社員の適応を支援する効果的な方法の一つです。メンターは上司とは異なる立場から新入社員をサポートし、業務上の疑問から組織文化の理解まで、幅広くサポートします。
メンター制度については、「メンター制度をオンボーディングに活用するポイント」の記事で詳しく解説しています。
情報アクセスの整備
新入社員が必要な情報に容易にアクセスできる環境を整えることも重要です:
- 社内ポータルサイトの整備
- 業務マニュアルやFAQの作成
- ナレッジベースの構築
- チャットツールや質問掲示板の活用
進捗管理とフィードバック
新入社員の成長を継続的に把握し、適切なフィードバックを提供するシステムも必要です:
- 定期的な進捗確認ミーティング
- スキルチェックリストの活用
- 360度フィードバックの実施
- 達成度評価と次のステップの明確化
オンボーディングを成功させる5つのポイント
これまで紹介した3つの施策を効果的に実施するためには、以下の5つのポイントを押さえることが重要です。
1. 人事担当者が信頼関係の土台を作る
株式会社リクルートキャリアの調査によると、早期に優秀な人材として活躍し始める人のうち約8割が、入社前に人事担当者と十分なコミュニケーションを取っていた経緯があるとのことです。
入社前から人事担当者が新入社員とのコミュニケーションを積極的に取り、信頼関係を構築することで、入社後のスムーズな適応を促進できます。また、入社前に企業情報をオープンに共有することで、入社後のギャップを最小限に抑えることができます。
2. キャッチアップに必要な情報を集約する
新入社員が業務に必要な情報に容易にアクセスできる環境を整えることは、オンボーディングの重要な要素です。社内規則、業務フロー、組織構造など、基本的な情報をポータルサイトや社内イントラネットにまとめておくと、新入社員の自主的な学習を促進できます。
また、テレワーク環境では特に、気軽に質問できる機会が減少するため、このような情報整備の重要性が高まります。「ここを見れば基本的なことは理解できる」という環境を用意することで、新入社員の不安を軽減し、独立性を育むことができます。
3. スモールステップ法を意識する
スモールステップ法とは、大きな目標を小さな達成可能なステップに分けて進める方法です。新入社員に大きな目標を与えると、達成のイメージがつかず、ストレスを感じてしまうことがあります。
小さな成功体験を積み重ねることで、自己効力感が高まり、次の挑戦に向かう意欲が生まれます。具体的には、以下のような方法が有効です:
- 3か月単位の短期目標設定
- 週次の達成目標の設定
- 日々の小さな成果の可視化
- 定期的な振り返りと成功の共有
4. メンター・トレーナーを育成する
メンターやトレーナーの質は、オンボーディングの成否を大きく左右します。適切なメンターの選定と育成を行うことで、新入社員へのサポートの質を高めることができます。
メンターの選定では、以下のような点を考慮するとよいでしょう:
- コミュニケーション能力の高さ
- 指導力や説明能力
- 忍耐力や共感性
- 組織文化への理解と体現
また、選定したメンターやトレーナーに対して、以下のようなトレーニングを提供することも重要です:
- メンタリングの基本スキル研修
- フィードバックの方法
- コーチング技術
- 新入社員の心理状態の理解
5. 組織全体で新入社員をサポートする
オンボーディングは人事部や直属の上司だけの責任ではなく、組織全体で取り組むべき活動です。全社的な文化として新入社員をサポートする風土を醸成することが、成功の鍵となります。
具体的な施策としては、以下のようなものが考えられます:
- 部署を超えた交流会やランチ会
- メンター以外の「バディ」の設定
- 全社的なウェルカムイベント
- 経営層との対話セッション
- 社内SNSやチャットでの積極的な関わり
まとめ
オンボーディングの成功には、「オンボーディングエンゲージメント」「オンボーディングコミュニケーション」「オンボーディングシステム」という3つの施策を総合的に実施することが重要です。
新入社員のエンゲージメントを高め、リーダーや同僚のコミュニケーション能力を向上させ、適切な受け入れ体制と教育システムを整備することで、新入社員は組織に馴染み、早期に成果を出すことができるようになります。
また、これらの施策を効果的に実施するためには、人事担当者による信頼関係の構築、必要情報の集約、スモールステップ法の活用、メンター・トレーナーの育成、組織全体でのサポートという5つのポイントを押さえることが大切です。
オンボーディングは一朝一夕に完成するものではなく、継続的な改善が必要なプロセスです。新入社員からのフィードバックや組織の変化に合わせて、常に見直しと改善を行いながら、より効果的なオンボーディングを目指しましょう。
効果的なオンボーディング研修プログラムの設計方法については、「効果的なオンボーディング研修プログラムの設計方法」の記事で詳しく解説しています。
チームダイナミクスでは、行動の習慣化による本質的な変化の実現を重視した研修プログラムを提供しています。オンボーディングに関するご相談も承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。